■モール泉とは何か
モール泉（Moor Hot Spring）は、地中に眠る植物由来の有機物を多く含む温泉です。北海道の十勝川温泉が代表的で、湯は琥珀色や黒褐色を帯びています。実はこのモール泉、温泉法による「温泉の定義」にも、鉱泉分析法指針による「療養泉の定義」にも含まれません。理由は、ラドンや硫黄などの無機成分が少なく、化学的には「療養泉」と認められないためです。しかし、肌への優しさや温まりやすさから、利用者の満足度は非常に高い泉質です。

■植物起源の天然美容液
モール泉は、地層中で長い年月をかけて分解された植物成分（フミン酸やフルボ酸）を多く含みます。これらが皮膚の保湿を助け、湯上がり後の肌をしっとり保ちます。そのため「天然の化粧水」とも呼ばれ、乾燥肌の人にも人気です。

■泉質と香りの特徴
モール泉は弱アルカリ性～中性で刺激が少なく、敏感肌にもやさしい泉質です。湯には植物が発酵したような甘い香りがあり、湯ざわりはとろみを感じるほどなめらか。これは地下深くで有機物が分解され、有機酸が豊富に含まれているためです。

■他の泉質との違い
硫黄泉や塩化物泉のような明確なミネラル効果は少ない一方、肌表面の水分保持力を高める働きがあり、美容目的の温泉として注目されています。

■モール泉の色の違い
モール泉は湯の色の濃さや透明度が場所によって異なります。

琥珀色：浅い地層由来で、有機物が少なく透明感がある
茶褐色：フミン酸が多く、抗酸化作用が高い
黒褐色：植物成分が濃く、保湿効果が最も強い

光に当たると黄金色に輝くこともあり、自然が作り出した“液体の森”のような美しさを放ちます。

■分類を超えた“自然の恵み”
モール泉は法律上の定義を超えた植物性温泉の奇跡です。
その美しい色合いとやわらかな湯ざわりは、科学的分類では語りきれない癒しの力を秘めています。モール泉に浸かることは、まるで大地と植物が織りなす自然の美容液に包まれるような体験。日本の温泉文化の中でも、ひときわ特別な存在といえるでしょう。