■温泉台帳とは何か
日本の「温泉台帳」とは、各温泉の源泉・泉質・湧出量・所在地などの情報を公的に記録する台帳のことです。これは国が温泉資源を適切に管理し、後世へ継承するために作られた“温泉の戸籍”ともいえる存在です。
温泉は自然の恵みでありながら、限りある地下資源です。そのため、正確なデータを残すことは、地域の観光や環境保全にとって欠かせない仕組みとなりました。

■温泉法による台帳の根拠
温泉台帳の制度は、昭和23年（1948年）に制定された「温泉法」に基づいて整備されました。都道府県が中心となり、温泉ごとの情報を記録・更新し、利用状況を管理しています。これにより、温泉の乱掘や不正利用を防ぐことが可能になりました。

■温泉台帳誕生の背景
戦後の日本では、温泉が「観光資源」として急速に注目を集めるようになりました。しかし、当時は掘削技術が発達し、多くの地域で温泉の過剰開発が進行。これにより、湧出量の減少や源泉の枯渇といった問題が各地で起こりました。
この混乱を防ぐため、国は温泉を法的に保護する制度を整備し、各源泉を一元管理するための「温泉台帳」の作成が始まったのです。

■行政と科学の連携
温泉台帳の整備には、行政だけでなく地質学者・温泉分析機関の協力も欠かせませんでした。泉質や湧出温度、成分分析結果などの科学的データを体系化することで、温泉資源の持続的な利用が可能となりました。

■温泉台帳が果たす役割
現在、温泉台帳は各都道府県で管理されており、温泉掘削許可・利用許可の審査や、災害時の安全確認などにも活用されています。
特に近年では、温泉のデジタル化・データベース化が進み、誰でも閲覧できるよう公開している自治体もあります。これにより、温泉の透明性が高まり、観光業・研究・保全の三方面で活用が進んでいます。

■温泉文化の記録としての価値
温泉台帳は単なる行政資料ではなく、地域の歴史と文化を記録する貴重なアーカイブでもあります。古くから続く湯治場や名湯の変遷をたどる上で、台帳は“時代を超える証人”のような存在です。

■未来に続く温泉資源の守り手
温泉台帳の誕生は、温泉を「使う」だけでなく「守る」という考え方の出発点でした。
現代では、気候変動や地震活動などの影響で温泉環境も変化しています。だからこそ、正確なデータの記録と継続的な管理がこれまで以上に重要です。